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無料天然ガス発電でマイニング、沿ドニエストルのハイテク錬金術

2018年1月末、沿ドニエストル共和国議会はビットコイン投資促進法の第一読を可決した。

旧ソ連共和国モルドヴァからの分離・独立を目指して1990年代から事実上の独立を維持してきた沿ドニエストル共和国では昨年、電力輸出を中心とした経済持続モデルが崩壊し、その代替としてビットコインの発掘(マイニング)事業が浮上している。

マイニングに必要な環境、すなわち安価な電力が沿ドニエストルに備わっているからである。

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沿ドニエストルの持続モデル

沿ドニエストル共和国は、モルドヴァウクライナ間に挟まれたいわゆる「未承認国家」である。

現地の政治勢力が域内を実効支配し、事実上の国家として機能しているものの、(ロシアを含めた)国際社会からの国家承認がない状態である。

このような「未承認国家」は旧ソ連地域に点在し、最近でも、ウクライナからの分離を目指すルガンスク人民共和国、ドネツク民共和国が新たにリストに加わっている。

その沿ドニエストル共和国であるが、この10年間、「未承認」という立場を利用して経済を回してきた。

沿ドニエストルは、法的にはモルドヴァの一部であり、ロシア・ガスプロム社からの天然ガス供給も、モルドヴァ側の契約に従属することになっている。

しかし、自らを独立国とみなす沿ドニエストルは、2005年、ガスプロム社にモルドヴァから独立した個別契約を要求。

これが拒否されると、「未契約なためガス価格は決定されていない、従って支払額も確定されない」として、支払いを行なわないままガス輸入・消費を開始した。

不払い金は累積を続け、2018年初時点で60億ドル(沿ドニエストルGDP国内総生産の約8倍)に達している。

無料の輸入ガスによって沿ドニエストル政府は安価な域内ガス価格を実現することができ、住民保護、輸出産業の競争力強化につなげられる。

そして沿ドニエストル最大のガス消費者は、ソ連時代に建設された巨大な火力発電所モルドヴァ国家地区発電所=MGRES」である。

沿ドニエストルGDPは、モルドヴァの8分の1であるにもかかわらず、天然ガス消費量はモルドヴァの2倍に達している。これは、単体で年10億m3以上のガスを消費するこの発電所があるためである。

発電所は、沿ドニエストル政府が設定する1000m3あたり100ドル以下という「コスト割れ」したガス価格で発電し、その3分2を輸出に向けている。

最盛期には電力輸出は沿ドニエストル貿易輸出額の50%に達し、沿ドニエストル経済の屋台骨となっていたのである。

ちなみに発電所の所有権はロシアのInter RAO(ロシア国営統一エネルギーシステム社の子会社)が握っており、ロシア国営ガスプロムの無料ガスをロシア国営傘下の発電所が浪費する、という奇妙な構造になっている。

また、域内消費者から沿ドニエストル政府が徴収するガス料金は「ガス特別会計」に計上される。

ガス特別会計は、ガスプロムに対する将来的な決済に備えて積み立てられるべきものであるが、実際は財政赤字の補填に転用されており、歳入の3割に匹敵している。

崩壊する持続モデル

こうした持続モデルは、言うまでもなく、ガスプロム社、ひいてはロシア政府の負担で成り立っている。

沿ドニエストルが消費する年20億m3の天然ガス(今日の市場価格で5億ドル)はガスプロムやロシア政府にとって決して小さくない。

昨年、ついに発電所モルドヴァ向け輸出を絞り始め、その結果、2017年の発電量は前年比マイナス20%、電力輸出額は半減となった。

一方で、沿ドニエストル天然ガス輸入量は19億m3から17億m3(マイナス12%)に減った。つまり、電力産業が凹み沿ドニエストル経済が打撃を受ける一方で、ロシアの負担が減ったのである。

これはロシア政府からの明確なメッセージであり、沿ドニエストル政府は対応に迫られている。

 発電からブロック・チェーンへ

ここで浮上してきたのが、ビットコインのマイニング事業である。

マイニング事業の投資計画を持ち込んだのは、ロシアの「ビジネスマン」イーゴリ・チャイカ氏である。

彼の父、ユーリ・チャイカ・ロシア検事総長は、プーチン体制の「法の番人」としてロシア反体制派に対する苛烈な弾圧で知られるが、最近は米ドナルド・トランプ大統領のロシア・ゲートにも登場する人物である。

さらに父とその2人の息子のチャイカ一族は汚職疑惑でメディアを頻繁に賑わせている。

次男イーゴリは昨年9月、沿ドニエストルを訪問した際、クラスノセリスキー・沿ドニエストル大統領と会談した。

沿ドニエストルはヨーロッパ有数のインターネット速度・普及度を誇り、また非常に安い電力がある。これはマイニング工場を設置するうえで重要な要素である」と投資の魅力を語っている。

そもそも沿ドニエストル域内の電力料金体系は、モスクワの3分の1程度であり、これに「ビットコイン投資促進法」内で謳われる自由経済特区(各種公共料金の割引)の設置が加われば、マイニング投資の旨味は増すことになる。

沿ドニエストル政府にとっても、マイニングは極めて魅力的な産業である。マイニングで大量の電力が使われることにより発電量を維持でき、発電所がガスを消費してくれることで第2予算ともいえるガス会計を維持することができる。

また、ビットコインの売却は、内陸国沿ドニエストルが抱える輸出経路や通関問題とも無縁だ。もっともクリアすべき点は、クレムリンが、ガス浪費を今後も黙認してくれるのか、という点に尽きる。

そこで、プーチン大統領に近いチャイカ一家が登場するわけである。沿ドニエストル大統領が一企業家に過ぎないイーゴリ・チャイカ氏の誕生日にわざわざ祝電を打っているくらいだから、その必死さが伝わってくる。

また、沿ドニエストル政府はクレムリンへの忠誠心を示すべく、先のロシア
大統領選挙で域内に住むロシア国籍保有者22万人に在外投票の動員をかけ、プー
チン大統領の得票率96%を達成した。

これはロシア本土のプーチン大統領の得票率77%よりはるかに高い数字である。

ビットコインの相場は不安定でいつバブルが弾けるとも知れないが、仮に相場が安定して投資が行われれば、チャイカ一家、沿ドニエストル経済、さらにはクレムリンキックバックで恩恵を受けることになろう。

いずれにしても、それらの源泉は、ロシア国営ガスプロムが無料で垂れ流しているガスであり、つまるところロシア国民の富なのである。

未承認国家の錬金術

沿ドニエストル同様、ドネツク民共和国もマイニングに適した地域である。ドネツク民共和国の域内電気料金は極めて安く、かつウクライナ時代に投資されたネット環境も整っている。

実際、ドネツク民共和国政府は自国をマイニング場に適した場所であるとして西側投資家に投資を呼び掛けているし、既に地元資本の小規模なマイニング場が稼働している。

問題は、治安関係者が牛耳る人民共和国政府に対する信頼性であり、ロシア資本ですら投資を躊躇している。

いずれにせよ、封鎖や制裁などで世界経済から切り離されている「未承認国家」から見れば、マイニングは手っ取り早い産業政策・資金確保策ということになる。

ただ、ドネツク民共和国の安い電気料金体系もまた、ロシアからの援助を前提としているため、こちらも結局はロシア納税者の負担の上に成り立っているだけなのである。

ロシア国民の大半は、沿ドニエストルや人民共和国をロシアが援助することで、同胞を助け、さらにはモルドヴァウクライナNATO北大西洋条約機構)加盟を牽制していると理解している。

しかし、実際のところ、分かりにくい仕組みで巨額が費やされ、一部に不透明な形で利益がもたらされていることに気づいてはいない。

 

参考URL:

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52635